お米マイスター全国ネットワーク

Guts for ビジネス もっとタフになる!

ビジネスパーソンにおくる日本型食生活のすすめ

1)脳に栄養が足りてる?朝食が1日の仕事を左右する

1)脳に栄養が行き渡らないー現代人の誤解

 ご飯は炭水化物で、食べると”ブドウ糖“を作ることはよく知られています。しかし、食べた炭水化物の7割は筋肉、2割は脳で消費されることはあまり知られていません。また、脳のエネルギーは糖質だけなのです。ほかの臓器は、ほとんど糖質は使いません。心臓が使うエネルギーの約70%は脂肪です。なぜかと言うと、糖質を脳と筋肉のためにとっておきたいからです。仮に1000㌔カロリーの糖質を取ったとすると、筋肉で700㌔カロリー使いますから、脳のためには残り300㌔カロリーしかないということです。

人間の脳は1日400㌔カロリーぐらい使いますが、そのエネルギーの全部が糖質(ブドウ糖)です。つまり脳には1日400キロカロリーのブドウ糖が必要なのです。

それなのに、朝からごはんを茶わん1杯も食べないから、通勤電車で若いOLや男性ビジネスマンが、朝からつり革持ってコックリコックリやるわけです。あれは疲れているからではなく、脳の栄養が不足しているからです。これはまさに体の自己防衛反応で、できるだけエネルギーを使わないようにして脳のエネルギー不足をカバーしているのです。

(2)「糖質カット」に潜む危険

特に、脳の唯一のエネルギーになる糖質カットをすると、全く、脳のエネルギーが不足することになりますので、生きる為にひたすら眠るようになります。寝ているときが、一番エネルギーを消費しないからです。こんな状態の脳は活動するための燃料不足で「Oh NO!」と叫んでいるのです。こんな脳で朝からシャキッと仕事ができるはずもないのです。

最近の男性ビジネスマンも若いOLさん達も「糖質カット」「糖質カット」と念仏を唱えている方が大変多くなりました。脳の唯一のエネルギーをなぜカットするのか、我々専門家には全く理解できない現象です。しかも、お米などの糖質は1gで4㌔カロリーしかなく(脂肪は1gで9㌔カロリー)、決して太る食べ物ではないのです。それなのに糖質カットと言ってご飯を食べない。朝ごはんを抜く。では、集中力も低下し、午前中の仕事の効率が上がらないでしょうし、デスクの前でコックリコックリという場合もあるでしょう。

(3)脳のエネルギー不足とダイエットの深い関係 高度成長期から日本人が太ってきた理由は、脳の満腹感を与えるお米の消費が激減して、代わりに脂肪の多い食事をするようになってきたからです。胃から分泌される「グレリン」と言われるホルモンが食欲を掻き立てるホルモンです。脂肪をたくさん食べても、このホルモンを抑えることはできませんが、糖質はこのホルモンをしっかり抑制してくれるので、同じカロリーの食事でも、糖質をしっかり食べたほうが、満腹感が持続して、体重調節がうまくいくのです。

つまり、食欲や満腹感は脳のエネルギーのレベルによって調節されているのです。その脳のエネルギーが不足するから飢餓状態だと脳が錯覚して極力エネルギーを使わないようにするために、ダイエットしている女性はすぐに居眠りするのです。また、筋肉がエネルギーを浪費しないようにスイッチを切れば、体温が下がるので、低体温や冷え症の女性が増える原因となってきたのです。 つまり、朝のごはん食こそが脳にエネルギーを注入し、1日を元気にスタートさせる源なのです。会議中や仕事中に睡魔に襲われたり、どうも午前中は仕事が乗らないと思う方は、是非、朝食に“暖かいご飯”を試してみてください。

2)若いOLのダイエット願望に潜む、「隠れ肥満」にご注意!

(1)これが、隠れ肥満へのプロセス

筋肉と肝臓のグリコーゲンは、脳の栄養であるブドウ糖の非常食ですが、低炭水化物ダイエットの期間が長くなってくれば、この非常食も食いつくされてしまいます。そのため脳細胞は自分が死なないようにありとあらゆる手段をとろうとし、必要であれば、自分の体の筋肉も食べることになるのです。つまり、筋肉のタンパク質を分解して肝臓に運び、足らなくなった脳の栄養であるブドウ糖を新たに合成(これを糖新生)して血糖値を維持しようとするのです。

 そして、ついには自分の筋肉をも食い尽くすと、見た目は痩せ細っていきますが、これは脂肪が燃えて体重が減っているのではなく、むしろ大切な筋肉が減ってきた結果なのです。こうなると、ますます体の基礎代謝は低下し、実際はそれほど脂肪も減っていないがために、相対的には減量前よりも減量後の方が体脂肪率が高くなるケースが多くなってきます。これが、いわゆる「隠れ肥満」といわれる状態で、一見痩せて見える女性の約50%が肥満もしくは隠れ肥満なのが事実なのです。

(2)ダイエットによるストレスが体を弱くする 

 それでも、とにかく痩せ願望が強い若い女性の中には、もっと深刻な状態にまで及ぶことがあります。その原因はストレスによるものです。健全なダイエットは、肥満からおきる糖尿病、高血圧、高脂血症、心臓病などの生活習慣病の予防や改善にはとっても大切なことですが、急激なダイエットや行きすぎたダイエットは逆に大きなストレスになって体に負担をかけるのです。

 京都府立医科大学の青池先生の研究では、ネズミを急激なダイエットで絶食させると、外から侵入した異物から体を守る免疫の機能が大きく低下することが明らかになっています。特に免疫をつかさどるNK細胞の活性が低下するので、癌のみならず風邪ウイルスなどの感染性の病気にかかりやすくなるのです。

(3)危険な減量をやめ、「美しく痩せる」健康的なダイエットを

食事制限・減量を始めてからしばらくすると体重の減り具合が鈍くなってきます。これは減量にともなって人間が生きるために必要なエネルギー消費量である基礎代謝が少しずつ低下するからです。この機能は、長い歴史の中で、我々の祖先が飢餓との戦いに耐え忍んで生き延びるために身につけた、いわば生きるための本能的機能なのです。
つまり、私たちの体は、食べ物が少なくなると、体が省エネモードに入り、基礎代謝や活動量を自動的に低くして、飢餓に備えるのです。電車の中で爆睡している若いビジネスマンやOL達は、体がエネルギー消費を低下させるために機能し、まさしく「生きる為に寝ている」のです。それは寝ることが最もエネルギーを消費せずに済むからです。これでは「輝くキャリアウーマン」どころではないのです。

一方で、食事制限をせずに、運動でエネルギー消費を増加させた場合、除脂肪体重(骨、筋肉組織)を減らさずに、脂肪だけを燃焼させることが可能になります。いいかえれば、“運動ダイエット”では大切な筋肉や骨などのからだの構成成分を減らさずに、脂肪だけを確実に減らせることが可能になるのです。“運動ダイエット”は消費カロリーを確実に増やせることだけでなく、筋肉を維持し、基礎代謝を上昇させ、呼吸循環系の体力もパワーアップしてくれるので、全身の血行も良くなり、お肌がイキイキして、便秘も運動で解消され、結果として「美しく痩せられる」のです。 

3)飲酒のお供に“ごはん”をどうぞ 

 サラリーマンの食事が乱れる原因の1つに「接待宴席」や「仕事の後の飲ミニケーション」があげられます。ビールをたっぷり飲んで、高脂肪の揚げ物や焼き肉を食べて、最後に締めのラーメン。こんな食事では体に負担がかかります。たまにならまだしも、週に何回も続くと、やはり自分で節制をしていかないと生活習慣病への道を一直線となってしまいます。

 先述した通り、食欲をかきたてるのは、胃から分泌される「グレリン」と言われるホルモンです。脂肪をたくさん食べても、このホルモンを抑えることはできませんので、宴席では、ついつい高脂肪のものをかなりの量食べてしまうこととなります。しかし、糖質はこのホルモンをしっかり抑制してくれるので、糖質をしっかり食べたほうが、満腹感が持続して食べすぎを抑制してくれます。
 ですから、理論的には飲酒の時には、先に炭水化物などを食べて糖質を補充しておく方が良いのです。宴席でついつい食べ過ぎる方や生活習慣病予備軍の方は、宴席前や開始早々に「ご飯ものやパスタ、ピザなどの炭水化物」を食べておくことも一つの考え方です。また、お酒ならば日本酒は、糖質が豊富で、比較的、食事もヘルシーになるためおすすめかも知れません。

 人の脂肪細胞は、ダイエットや筋トレをしても数は変わりません。それなのに何故、お腹が出るのか?それは1個1個の脂肪の細胞に油が貯まり、ひとつの細胞が大きく膨れ上がるためです。脂肪が膨れると脂肪細胞は周りからヤケド状態になって炎症を引き起こし、その際に悪玉生理活性物質が出て生活習慣病の原因となるのです。

4)サラリーマンの心配事!糖尿病は糖質の取りすぎが原因なのか?

(1)遺伝では説明がつかない糖尿病の激増。

お腹がだぶついた中年サラリーマン諸氏は日増しに増えて、メタボ検診では恐らく40歳以上の男性の二人に一人はメタボリック症候群に罹患している可能性が示唆されています。メタボリック症候群は運動不足や肥満が温床になっており、だぶついた内臓脂肪から多くの病気の原因遺伝子(アディポサイトカイン)が放出されることになるのです。

その一つが糖尿病です。糖尿病はいろいろと誤解されている病気です。糖質をたくさん摂ると、その一部が尿から漏れてくる病気と思っている人が多い。また「糖尿病は遺伝する」という風説。これは明らかに間違っています。糖尿病が強く疑われる人(890万人)や可能性を否定できない「予備群」(1,320万人)は、合わせて2210万人と推計されることが、厚生労働省の「2007年国民健康・栄養調査」で分かっています。これは正確な記録が残っている1955年と比べて40倍近い人数になります。
糖尿病は感染する病気ではないので、罹患者が40倍近くにもなるのは遺伝だけでは到底説明がつかないのです。

(2)食事の変化が糖尿病の原因であるならば・・・。

一方、最近の流行は「糖質ゼロ」「糖質カット」を謳ったビールや飲料です。糖質は脳の唯一のエネルギーなのに、何故、「糖質ゼロ」「糖質カット」と騒ぎ立てるのか。それは、糖尿病は糖分の摂りすぎで起こる病気だと勘違いしているからです。
なぜなら、昭和30年代の食生活では、国民一人当たり年間120㌔のお米を食べていましたが、最近では当時の半分の60㌔しか食べていません。実にお米の消費量は半分にまで激減しており、砂糖の消費量も大幅に減った今、なぜ糖尿病が40倍にもなるのでしょうか。ご飯などの糖質の摂りすぎで糖尿病が起こるのなら、当時の日本人は、みんな糖尿病に罹っていたはずなのです。

(3)糖尿病は筋肉の活動と大いに関係あり。

糖尿病の主な原因は運動不足なのです。運動不足と糖尿病とがどうして関係してくるかというと、体内に摂取した糖質の七割が筋肉で消費されるからです。
筋肉は大食漢で最も大量に糖質と脂肪を消費する“臓器”なのです。前回説明した通り摂った糖質の七割が筋肉で使われ、残りの二割は脳で消費され、心臓とか腎臓とか他の臓器は摂取したすべての糖質のわずか一割を使っているにすぎないのです。このことは、アメリカでの7日間のベッドレスト(完全休養)実験で、筋肉の糖取り込み能力やインスリン作用の低下が劇的に起こることが証明されました。

世界で最も健康管理ができているNASAの宇宙飛行士ですら、宇宙での2週間の無重力飛行で超運動不足を強いられ、地球に帰還すると、糖尿病患者よりも血糖コントロールが悪くなっているのは容易に理解できるでしょう。

5)輝くビジネスマンになる。歩行運動で心身ともにスッキリ!

食事とともに『脳』と「筋肉」に重要なことは、「運動」です。体の余分な脂肪を減らすには運動が効果的です。運動といってもスポーツやマラソンのような激しいものばかりではありません。
二―ト(体を鍛えるための運動ではなく朝起きて寝るまでに、家事をしたり仕事をしたりという運動を言う)が大切なのです。二―トには、必ずエネルギー消費が伴います。実はこの二ートが摂取カロリーの4割を使います。ただ立っているだけでも重力の影響でエネルギーを使います。そのため、この二―トを増やすことがとても効果的です。

中でも、サラリーマン諸氏にとっていつでもできる「歩行」は、安静時の3倍もエネルギーを消費する運動強度なので、こまめに歩けばエネルギー代謝が3倍もアップするわけで、世界で最も有効なダイエットサプリなのです。世界中探しても、3倍もエネルギー消費がアップするダイエットサプリメントは販売されていないのです。
通勤を少し遠回りする。ひと駅歩く。エスカレーターやエレベーターを使わず階段を使う。社内でも電話で済ませずに行く。まめに買い物に行く。などニートを増やすことはいくらでも可能です。

また、最近の医・科学の研究では、運動に免疫機能を高める作用(とくにガン免疫をつかさどるNK細胞の活性化など)があることが明らかにされています。また、運動中に分泌される体内麻薬様物質のβエンドルフィン(快感と多幸感を生むといわれています)は、免疫をつかさどるリンパ球のT細胞を増殖し、ガンと戦うNK細胞の機能を高める作用をもっています。
さらには、最近では運動をすると脳の中の記憶や学習能力を司る「海馬」に栄養を伝達する遺伝子が発現することが明らかになりました。
これは脳由来神経栄養因子(BDNF)といわれるもので、認知症を予防するうえでも非常に重要な役割を果たすことがヒトのデータで証明されています。運動をすると記憶がよくなり、学習能力を高めることが報告されています。

これまで説明した通り、「高炭水化物食(ごはんを中心とした日本型食生活)」と「運動(歩行)」を組み合わせることで高い相乗効果が生まれます。
 ビジネスパーソンの皆さん。難しく考えず、日常生活を少し見直すだけで、貴方の心身は大きく変わってくるはずです。
さぁ毎日GOOD JOBで輝きましょう!

ARE YOU OK?

図


(プロフィール)
森谷敏夫
京都大学大学院人間・環境学研究科教授。

 1950年、兵庫県生まれ。南カリフォルニア大学大学院博士課程を修了。テキサス大学、テキサス農工大学大学院助教授、カロリンスカ医学研究所客員研究員(スウェーデン政府給費留学)、モンタナ大学生命科学部客員教授などを経て、2000年より現職。生活習慣病を予防するための運動の必要性を説き、有酸素運動の実践を奨励している。専門は応用生理学とスポーツ医学。

トップに戻る